下記の記事は、平成15年の秋に掲載したもので、当時、S大K研究室の学生さん達が卒論や修論で桜江町内外を何年もかけて調査されていました。 筆者の自宅の近くに空き家があったので、そこを宿泊所代わりにして調査を続けられました。

(平成15年11月記載)

フィアメはどこだ、フィアメを探せ!
桜江層群の調査・・・S大四回生のO君
場所:桜江のチベット

 今年の六月以来(平成15年)、卒業研究で桜江層群を調査されてきたO君、桜江のチベットと当館が呼んでいる急峻な山と深い渓谷ばかりの山中で一人もくもくと調査を続けられてきました。 イノシシ三頭以外には大型野生動物との特別な出会いもなく、少々物足りなかったそうです。 もうあと少しで調査も終わりということですが、気を抜かずしっかりやってりっぱな卒業論文を完成してください。
※フィアメ
   ・・・溶結凝灰岩中に含まれているレンズ状の岩片で、火山から火山噴出物といっしょに噴出した軽石が、堆積後、層中の高い温度と荷重によって押しつぶされてレンズ状に扁平化したもの。 肉眼で確認できるくらい大きなものから顕微鏡でやっと確認できるものまでサイズはさまざま。 フィアメの向きは地層の層理面や葉理面などの面構造に平行なので、フィアメの向きから地層の広がりや褶曲・傾動といった地質構造が解明でき、フィールドでのフィアメの観察は必須。
これから紅葉の季節だ! 日貫川の川床にて
 桜江町と石見町の町境付近を流れる日貫川。 標高の高いところだけに紅葉が始まるのが早い。 「これから良い季節になるねえ」と言うと、「ぜんぜん、これからは寒くなって日も短くなるので調査がやりずらくなる」とブツブツこぼしておられた。

 凝灰岩の層を貫く幅2m弱の黒っぽい不明の岩脈。 エスチングハンマーは軽くて使いずらいと、O君が愛用しているハンマーは石屋さんが使うゲンノウである。 さすが!

 岩脈との接触面の走向・傾斜をクリノメーターと走向板を使ってていねいに測る。 O君いわく、「この岩脈、小規模だから地質図には書けないけど・・・」 ギャハハ
 「どうもよくわからんところだ」と目を凝らして観察する。 このあたりは岩石の見かけが複雑に変化しており、岩石を区別して記載することが難しい。

 難しいところは腰を据えてじっくりと観察する。  姫路のナンバーの車が見える。
 調査では詳細な観察と正確な記録が必要である。 観察地点ごとに詳細な記録をとる。

 溶結凝灰岩中にフィアメが観察できるところでは、かならずその向きを計測し記録をとる。
 
 「おお、フィアメが見える」と霧吹きを手に持って露頭へ近寄る。 岩石の表面を水でぬらすと表面の模様が見えやすくなり、フィアメを確認しやすくなる。

 道ばたにしゃがんで鼻をかんでいるわけではありません。 露頭から叩き出した岩片をルーペで詳細に観察してフィアメを確認しているところです。
 フィアメを確認できたら、もとの露頭面にマーカーでフィアメの向きを書き入れる。 決して落書きしているわけではありません。

 クリノメーターと走向板を使ってフィアメの走向と傾斜を正確に計測する。
 一日の調査がすんだ後は風呂上りのビールの一杯が実に心地よい。 館長もここぞとばかりビールを飲みまくる。 ソースはあんまり飲みません。

 ちょっとギャグをまじえて紹介させていただきましたが、やってる本人は真剣そのもので非常に真面目です。 地質調査はフィールドでの正確な観察と詳細な記録が必要であり、その上、体力のいる大変な活動です。 こういう人達の並々ならぬ努力によって地質図が作られてきたのであるということを我々は自覚し、彼らに敬意を表さなければいけないと思います。
 世間でよく、地質図に書いてあることをかってに引用し、さも自分で調べたことのようにもっともらしい事を述べている素人を目にします。 このような人達には、地質図を作るためにフィールドで努力をしてきた人達の苦労が一体どれほどわかっているのだろうかと首をかしげてしまいたくなることがよくあります。
 完成された完璧な知識を活用することは簡単ですが、それを作り上げてきた先人達の努力は並大抵のことではないはずです。 もっと自覚すべきだと思います。